☆【コラム】墨は硯で、なぜ磨れる?

どうして墨は硯で磨ることができるの?

こんな疑問を投げかけられたら、皆さんはどのように答えるでしょうか。

私はこう答えます。「硯には鋒鋩(ホウボウ)があるから

鋒鋩とは、簡単に言えば凸凹(デコボコ)のことです。

硯の表面には微細な凹凸があります。水に濡れている状態の硯や細かい凹凸の硯に触れてもなかなか気付きにくいのですが、硯の表面には「おろし金」のように突き出た部分引っ込んだ部分があるのです。この凹凸が固形墨の表面を削り取り、水と混ざり合うことで墨液が作られます。

鋒鋩の細かさは硯の素材によって大きく左右されます

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例えば、多くの書道用品店で売られ、一時期はかなりの人気を博した澄泥硯(雘村石硯(カクソンセキケン)ということもあります)は鋒鋩が荒いことで知られています。

その為に素早く墨液を作ることができ、大字作品などを書くときは大変重宝されます。反面、墨がどんどん磨り減ってしまうため、小さな墨を使用しているとアッという間に墨が無くなってしまいます。

反対に、鋒鋩の滑らかな硯としては瑪瑙一種で制作された硯を挙げることができるでしょう。

紅絲石硯という名称で売られていることもあるこの硯には、鋒鋩がほとんど無く、墨液を作るのに大変な時間がかかります(ちなみに、古来有名な紅絲石硯と瑪瑙の一種で作られた硯とは素材が別物といわれています)。見た目が美しく、机上に置いておくと格好よいのですが、実用的な面ではお勧めできる硯ではありません。

鋒鋩は、硯として制作される段階で職人が目立てをしてくれているのですが、使用しているうちに機能が鈍くなることがあります。これを退鋩といいます。

固い墨を磨ることで墨だけでなく鋒鋩の方まで削れて凹凸が無くなったり、使用後の洗浄が不十分で汚れが凹凸部分を埋めてしまうことが原因だといわれています。

こうなってしまった硯は本来の役割を果たせないため、再び鋒鋩を立て直す作業をしなければなりません。その作業に使用されるのが泥砥石や紙ヤスリです。泥砥石や紙ヤスリを硯の表面にかけることで、硯は墨を磨る機能を回復することができます。

さて、鋒鋩の荒い硯と滑らかな硯、どちらの方がよい硯なのでしょうか。おそらく、それは使用者の目的によって決まるといってよいでしょう。

「大きな字を書きたい」「たくさん練習をしたい」という方には早く墨汁が作れる鋒鋩の荒い硯が、「墨の繊細な滲みを楽しみたい」「のんびりと墨を磨りたい」という方には鋒鋩の滑らかな硯が向いていると思います。

同じ墨を磨っても、硯の鋒鋩の具合により、墨の滲みや伸びなどに違いが出てきます。いろいろな鋒鋩の硯を使って、さまざまな墨液を作り、それで作品を書いてみるのも書道の楽しみの一つです。ぜひ、いろいろな種類の硯を試してみて下さい

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